万能調味料「じゃこ味噌」をご飯にたっぷり乗せて
イワシの稚魚のシラスを食塩水でゆで上げ、天日で干した「じゃこ」は、江戸時代中期、高級な鰹節の代用品として作られるようになりました。その始まりは製塩業が盛んでイワシがよく獲れる瀬戸内海地方だと言われています。中でも愛媛県の八幡浜市や宇和島市などは、宇和海から水揚げされる豊富な魚をすり身にして揚げた「じゃこ天」などの加工品製造が盛んに行われてきました。
じゃこ味噌はじゃこの香ばしさと味噌の甘みが程よくマッチし、関西から中四国を中心に古くから愛されてきた万能調味料です。作り方もシンプルで、はじめにじゃこを軽く炒って乾燥させ、すり鉢に入れて細かくします。これに、みそ、酒、水を加え、とろりとなるように混ぜて出来上がり。
温かいご飯にたっぷりのじゃこ味噌を乗せ、小口に切ったきゅうりと根元を切ったカイワレ菜、お好みによっては刻み生姜を添えたものが、じゃこ味噌ご飯です。
じゃこ味噌はバリエーションの多さも特徴で、蒸して細かくしたにんにくや、山椒、梅肉などを加えることで、様々な味が楽しめます。また、ご飯だけでなくおにぎりにまぶして焼けば一層の香ばしさが味わえますし、パンや麺類に乗せてもよく合います。冷奴や野菜スティックの味付けにも使え、冷蔵庫の中なら3週間程度は日持ちがするので、作り置きおかずとしても便利ですね。
海と山に育まれた、歴史ある郷土料理
じゃこの語源は雑魚と言われ、片口いわし、真いわし、うるめいわしなど、いわしの稚魚を総称します。せいろに広げて天日に干した様子が、絹織物のちりめん(縮緬)に似ているため、「ちりめんじゃこ」とも呼ばれるほか、地域によっては「おじゃこ」、「かちり」などの呼び名もあります。宇和島藩史によれば「じゃこ天」の始まりは、1615年に初代藩主の伊達秀宗公が故郷を偲び、仙台から蒲鉾職人を連れてきて作らせたことによるそうで、長い歴史を持つ食材です。最近ではじゃこ天を油で揚げた「じゃこカツ」やハンバーグの代わりにした「じゃこ天バーガー」など、ユニークなメニューも人気を集めています。
一方、愛媛の味噌といえば、農村部に古くから伝わる麦味噌が有名です。愛媛では米の裏作として麦を栽培しており、米は年貢として納め、麦を食用とする時代がありました。
麦味噌は、大豆に麦麹と食塩を加えて作るもので、はだか麦をふんだんに使用するため麹歩合が高く、他の味噌と比べ芳醇な香りと上品な甘さが特徴です。また、食物繊維とタンパク質が豊富で栄養価も高く、農家で独自につくられることから田舎味噌とも呼ばれています。
漁港で水揚げされるじゃこと、農村部で作られる麦味噌を合わせたじゃこ味噌ご飯は、愛媛県の歴史と風土に育まれた、真に生活に根ざした郷土料理と言えますね。
小説「坊っちゃん」の舞台で、名湯につかる
愛媛県松山市は、明治の文豪・夏目漱石の人気小説「坊っちゃん」の舞台として有名です。漱石自身が教師として松山中学に赴任した体験をもとに書かれているだけに、明治時代の松山名所も数多く登場します。中でも一番の人気は道後温泉。古くは古事記や万葉集にも登場する、日本最古といわれる温泉で、神代の時代には大国主命と少彦名命が、飛鳥時代には聖徳太子が入浴されたと伝えられます。
名湯・道後温泉が全国的に名を知らしめたのは明治23(1890)年。初代道後湯之町町長に就任した伊佐庭如矢が、老朽化していた道後温泉本館の改築に取り組みました。あまりのスケールの大きさに反対の声も多く上がりましたが、「100年の後までも、他所が真似できないようなものを作ってこそ、はじめてそれが物を言うことになる」という強い意志のもと4年の歳月をかけて改築を完遂。木造三層楼の本館は、銭湯としては唯一、国の重要文化財に指定されています。
小説「坊っちゃん」の主人公は、道後温泉と湯上がりの団子を愛し、奔放な教員生活を過ごします。小説には登場しませんが、老人夫婦が暮らす下宿に住んでいたことから、じゃこ味噌ご飯も食べていたかもしれません。
みなさんも松山に行くときは、小説「坊っちゃん」を片手に、温泉とじゃこ味噌ご飯を味わってみてはいかがでしょうか。
「じゃこ味噌ご飯」(2人分)
- エネルギー 320kcal
- 食塩相当量 2.7g
- ※一人分の値
材料
- かえりちりめんじゃこ15g
- みそ大さじ2
- 酒大さじ1
- 水適量
- きゅうり1本
- かいわれ菜1/2パック
- しょうがのすりおろし少々
- ご飯2膳
作り方
- じゃこは軽く炒って乾燥させ、すり鉢に入れて細かくする。みそ、酒、水を加え、とろりとなるように混ぜて、じゃこみそを作る。
- きゅうりは小口に切り、かいわれ菜は根元を切り、ご飯の上にのせ、じゃこみそをかける。
- 好みでしょうがをのせる。