盛り上げた味噌で、たっぷりのかきと野菜をいただく「土手鍋」
「かきの土手鍋」という名称には三つの由来があります。一つは味噌を鍋の内側に土手のように塗るため、大阪名物「どて焼き」が鉄板の両脇に味噌を土手状に積み上げる姿に似ています。二つめは、この料理を考案したという土手長吉さんの名前から。三つめは江戸時代のお話し、広島産のかきを大阪へ輸送する「かき船」が、川の土手で鍋を食べさせていたから。 いずれも信憑性の高い説ですが、いずれにしても広島を代表するかきを味わう料理方法として長く愛されてきたことは間違いありません。
かきが主役の土手鍋ですが、鍋の中身は盛りだくさん。
まずはかき300gを薄い塩水でふり洗いし、新しい水ですすぎ、水気をきります。次に野菜の準備、白ねぎ2本は斜め切り、春菊1袋、白菜1/4株は3cm程度の切り揃え、生しいたけ4枚は石づきを取り飾り切りにします。にんじん1/3本は花型に抜いて下茹で、えのきだけ1袋は根元を切り落とし食べやすい長さに切り、糸こんにゃく1袋と豆腐1丁も食べやすい大きさに切ります。
材料が揃ったところで、いよいよ味噌の出番。赤みそと白みそを100gずつブレンドし、お酒とみりん、砂糖を小さじ1杯ずつ加え混ぜ合わせ、土鍋のふちに土手状に塗ります。盛り付けも大切な要素で、土鍋の底に白菜の芯を敷き、残りの材料を彩りよく並べ、真ん中にかきをおき、だし汁を加えて火にかけます。煮立ってきたら味噌をくずしながらいただきます。 しっかりした味付けなので、鍋の後はご飯やうどんを入れて、締めの煮込み料理も人気です。
全国一位の収穫量と長い歴史、かき王国広島
広島県のかき生産量は日本全体の6割を占め、全国1位です。2位岡山県の6倍以上と、圧倒的な収穫量を誇ります。
なぜ、かきの収穫が広島県に適しているのでしょう?
一つは小さな島や岬に囲まれた地形的な特長があります。
波が穏やかで潮の流れも適度にあり、養殖用の筏(いかだ)を安全に設置できるのです。広島湾の水温変化がかきの整理に適している点も挙げられます。夏の水温上昇が産卵への刺激になり、秋の水温低下がグリコーゲンの蓄積(かきの身入り)を促します。
ほかにも河川水が流れ込むことで、海水中に塩分濃度の差による層ができ、かきが好む薄めの海水をもたらすことや、かきの養殖に適した豊富なプランクトンが発生することなど、地形と水質が広島に豊かなかきをもたらせているのです。
そのため広島では、縄文・弥生時代から天然のかきを食べていたことが、貝塚の調査から判明しており、安土・桃山時代にあたる1500~1600年代には、かきの養殖が始まっていたといわれます。
土手鍋以外にも生牡蠣、酒蒸し、かき飯、お好み焼きなど、かきは広島グルメの王道なのです。
二つの世界遺産から、何を感じるか
我が国で世界遺産が注目を集めるようになったのは、1996年に登録された広島県の二つの世界遺産からではないでしょうか。ことに原爆ドームは人類の過ちを後世に伝える「負の世界遺産」とも呼ばれ、世界中に大きなインパクトを与え続けています。広島県物産陳列館として建設されましたが、1945年8月6日に投下された原子爆弾により全焼。しかし奇跡的に倒壊を免れ、熱線で折れ曲がった鉄骨と焼けただれた煉瓦が、戦後70年以上が経過した今も、色褪せることのない惨禍を物語っています。
原爆ドームの前を流れる元安川を下り、かき養殖の筏が立ち並ぶ広島湾を陸地沿いに西へ進むと、もう一つの世界遺産、厳島神社が現れます。
厳島神社は瀬戸内海の島を背景に、入江の海中に朱塗りの鳥居と社殿が建ち並ぶ、世界的にも稀有な建築物で、その美しさは「日本三景」にも数えられています。今なお、台風シーズンには度々被害を受けながらも、華麗な姿を保ちつづける厳島神社は、古来より日本人の心に根ざす信仰心の象徴です。
広島を訪れる多くの人々が、二つの世界遺産を目の当たりにし、それぞれの心で歴史に向かい合っています。
「かきの土手鍋」(4人分)
- エネルギー 310kcal
- 食塩相当量 3.8g
- ※一人分の値
材料
- かきのむき身400g
- 白菜4枚
- 長ねぎ2本
- 豆腐1丁
- せり1束
- 生しいたけ4枚
- その他、えのきだけ、しゅんぎく、糸こんにゃくなど好みで用意約20cm
- 昆布
- だし汁(昆布とかつお節)4カップ
- Aみそ大さじ3
- A豆みそ大さじ5
- A酒、しょうゆ、みりん各大さじ3
作り方
- かきは塩水でやさしく洗い、野菜や豆腐は食べやすく切る。
- 土鍋に昆布を敷いて具材を並べ入れ、かきをのせる。
- Aの合わせみそを作り、土鍋の周りに塗り土手を作る。
- 土鍋にだし汁を注いで火にかける。煮えてきたら土手を崩しながらかきと具材にみそをからめて食べる。