明治時代、ミリ飯として活躍した「ぼたん鍋」
「ぼたん鍋」は、白と赤の合わせ味噌をベースにしただし汁に、猪肉と野菜を入れる鍋料理です。野菜は白菜、長ネギ、春菊といった葉物からニンジン、ごぼうなどの根菜類、椎茸、えのき茸などのきのこ類と季節ものを中心にお好みで。こんにゃく、焼豆腐も欠かせません。猪肉の色が変わってきたところで、食べやすく切った野菜を入れて煮込む、野趣あふれる鍋料理です。
明治後期に、多紀郡篠山町に駐屯していた陸軍歩兵第70連隊が、訓練時に捕獲したイノシシの肉をみそ汁に入れたことが発祥とされており、のちに故郷に帰った兵士たちが丹波篠山の猪肉のおいしさを伝え広め、旅館や料亭でもみそ仕立ての鍋物にし、名物になったと言われます。第70連隊は、修験者の山行の場として知られる盃ヶ岳や多紀連山を使った苛烈な訓練から「丹波の鬼」と呼ばれており、猪肉と味噌の滋養が歓迎されたことは想像に難くありません。今風に言えば「ミリ飯(ミリタリー飯)」の走りとも言えますね。
「ぼたん鍋」という洒落たネーミングは昭和以降のことで、猪のシシを唐獅子にひっかけて、牡丹に唐獅子の言い回しから猪肉をぼたんと呼ぶようになり、兵庫県の料理旅館では、猪肉を牡丹の花びらのように並べて皿に盛り付け、人気を博したそうです。
長い歴史を持つ猪肉は、落語の主役
猪肉は縄文時代から食べられており、『日本書紀』などの文献にも猪肉や鹿肉の塩漬けについて記されています。仏教の伝来により肉食が禁じられて以降も「山クジラ」と呼ばれ、地方の山間部を中心に、貴重なたんぱく源として食されてきました。
明治時代に入り肉食が解禁されると、猪肉を使ったみそ鍋は庶民の間にも広まっていきます。当時の人気を示すのが古典落語「池田の猪買い」と「二番煎じ」でしょう。前者は大阪の男が猪狩りの名人とともに、当時は山深かった池田に狩猟に行く話し、後者は火の用心回りに集まった町内の旦那衆が、こっそり猪鍋を楽しむ話しです。みそ漬けにした猪肉をネギと一緒に鍋で煮込み、熱々を頬張る仕草は落語家の腕の見せ所。¬現在も多くの落語家が演じています。
現在、丹波篠山市内では約40軒のお店がぼたん鍋を提供しています。丹波篠山の大自然を駆け回り、丹波栗や丹波松茸などを贅沢に食べて育った天然の猪は、脂っこくないさっぱりとした味わいで人気があります。時間と手間をかけ手切りにこだわる店や、白みそ、合わせ味噌、白だしなど個性的な味付けを楽しめる店もあります。猪肉は、やわらかく淡白なロース、脂の旨味があるバラ、濃厚な赤身のウデ肉、赤身白身のバランスが良いモモ肉と、部位ごとに食感も異なるので、食べ比べも楽しいですね。
数多くの山城が、静かに歴史を語る
京文化の影響を受け独自の発展をとげた篠山は、歴史的な街並みと豊かな自然、美しい田園風景がひろがる城下町です。「篠山城」は慶長14年(1609)徳川家康が大坂城を包囲するために、十五ヶ国、二十の大名に夫役を命じて築城した天下普請の城として「日本100名城」に選ばれています。2000年には古い絵や写真、発掘調査に基づき篠山城大書院が復元され、「武家屋敷」「丹波古陶館」「篠山能楽資料館」などとともに歴史を伝えています。
このほか、応仁の乱で戦功をあげた波多野清秀が築いた「八上城」、戦国時代に織田信長の命を受け丹波を攻めた明智光秀により落城した「籾井城」と「八百里城」、その明智光秀が築いた「金山城」と「般若寺城」と、歴史ファンには多くの山城遺跡で知られ、貴重な史跡は大切に守られています。最近では丹波篠山市の観光交流課が御城印を発行するなど注目を集めており、ハイキング気分で訪ねてみてはいかがでしょうか。
「ぼたん鍋」(2人分)
- エネルギー 430Kcal
- 食塩相当量 3.4g
- ※一人分の値
材料
- いのしし肉(薄切り肉)400g
- こんにゃく小1枚
- 焼き豆腐1丁
- 生しいたけ4枚
- 長ねぎ2本
- せり1束/
- ごぼう1/2本
- その他、好みの野菜、ぎんなんなど用意
- 昆布約20cm
- 水1~1.2L
- A みそ 大さじ6
- A 酒 100cc
- A みりん 大さじ4
- A しょうゆ、砂糖 大さじ1強
- A 長ねぎみじん 太1/2本分
- A にんにくみじん 1片分
- 好みで粉さんしょう、七味、ゆずこしょうなど
作り方
- 始めに、土鍋に昆布と水を入れて置く。
- こんにゃくは食べやすい大きさに切って塩(分量外)で揉み、茹でる。焼き豆腐やしいたけ、野菜は食べやすい大きさに切る。
- 土鍋を火にかけ、煮えにくいごぼう、うま味の出るしいたけなどを加えて煮る。煮立ってきたところにAの合わせみそを溶き入れ、いのしし肉や残りの具材を入れて煮ながら食べる。
- 好みで香辛料を振る。