公家を魅了し、庶民にも根づいた、白みその芳醇な甘み
みそは日本全国で作られ、郷土食には欠かせない調味料です。土地によって製法や風味も異なるみそが、個性的な料理で私たちを楽しませてくれます。
京都の味噌といえば「白みそ」。赤みそに比べ米麹の割合が多い白みそは、麹の糖分により甘口に仕上がる点が特長です。見た目の白さは大豆を蒸さずに煮てから使用するため糖分やタンパク質がとり除かれ、麹と合わせてもメイラード反応と呼ばれる色素変化が起こりにくいことが原因です。
京都は白みそ発祥の地といわれ、歴史は平安時代にまでさかのぼります。貴重な米をふんだんに使う白みそのほのかな甘味と芳醇な味わいは貴族たちに愛され、宮中の節会(せちえ)料理をはじめ公家文化を彩ってきました。
室町以降、みそは庶民の生活にも根づき、公家文化が大きく影響する京都市中では正月をはじめとする季節の行事食材として白みそが定着します。さらに京文化を手本とする畿内を中心に関西圏へも広まっていくのです。
京都の白みそは雑煮や味噌汁以外にも、春野菜の酢味噌和え、賀茂茄子田楽、湯引き鱧の酢味噌和えなどあらゆる料理に使われ、あぶり餅や稚児餅、白みそ餡の柏餅など和菓子においても重宝されています。
縁起物の雑煮をベースに京野菜や酒粕も
味付けも具材も家庭ごとに異なるのがみそ汁。白みそ雑煮も同様ですが、ここでは京都のオーソドックスなレシピを紹介しましょう。
材料は2人分で頭芋(里芋の親芋)1/2個、雑煮大根1/6個、丸餅2~4個。
白みそ250g、昆布のだし汁3カップ、糸カツオを適量用意します。
頭芋は皮をむき、竹串が通るやわらかさまで弱火で茹でます。雑煮大根は皮をむかずに輪切りにして茹で、だし汁が沸騰したら弱火にし、白みそを入れてよく溶きのばします。丸餅は少し焼いて柔らかくし、頭芋、大根とともにお椀に入れ、たっぷりの白みそだしを注ぎ、糸カツオを盛り出来上がりです。餅は焼くこともありますが、白みその風味を立たせるため茹で餅にすることも多いようです。
新年を寿ぐにふさわしく、丸餅は円満と長寿を願い、頭芋は子孫繁栄・立身出世を、大根の丸い切り口も円満を意味しています。このほか京野菜の金時にんじんを彩りに使い、白みそと紅白をなす演出も見られます。
雑煮にこだわらない白みそ椀としては、聖護院蕪、九条ネギ、京山科なすなど京野菜との相性が良く、うずら豆腐や焼きしいたけを入れる場合もあります。
京都といえば伏見の酒造りも有名です。昆布のだし汁に白みそと一緒に酒粕を入れ、だいこん、にんじん、油揚げ、豚コマ肉を入れればボリューム満点の京都風豚汁に。しんしんと冷えこむ京都の冬には特にオススメです。
雨の京都で庭園巡りを
日本を代表する国際観光都市京都、近年は海外から多くの観光客が訪れ、嵐山の渡月橋や清水寺参道などの加熱ぶりはオーバーツーリズムという新たな社会問題にすらなっています。白みそを愛した平安貴族のようなゆったりした気分で古都の趣を味わうことは、もはや不可能かもしれません。
少しでも人手の少ないタイミングでと人気なのが雨の日の京都散策。天候のことだけにそう思いどおりには行きませんが、雨の日にしか出会えない京都の魅力もあります。そのひとつが庭園めぐり。京都には春夏秋冬を楽しめる名園が多く、雨の日の緑はよりみずみずしく、しっとり濡れた枯山水は情緒を増し、池の波紋すら神秘的に感じます。
日本庭園の最高峰と呼ばれる桂離宮や醍醐寺、龍安寺の石庭、西芳寺の苔庭などが人気ですが、1965年に造園された妙心寺退蔵院、2010年設計の真正極楽寺など現代風庭園もまた魅力的。雨の京都で庭園美を慈しみ、冷えた体を白みそ椀で温めてはいかがでしょうか。
「白みそ椀・雑煮」(人分)
- エネルギー 78kcal
- 食塩相当量 1.7g
- ※一人分の値
材料
- 小かぶ2個
- 切りみつばの茎4本
- だし汁300㏄
- 白甘みそ50g
作り方
- かぶは茎を切り、皮をむく。水に塩少々を加え串がすっと刺さるまで茹でる。
- だし汁にいそを溶き入れ、温める。椀に温かいかぶを入れ、みそ汁を注ぐ。
- みつばは茎部分を熱湯でさっと茹で、結び飾る。好みで、溶きからしを添える。