「冷汁」は、鎌倉時代発祥の、元祖暑さ対策の機能食
汁は味噌汁同様、日本全国で食べられてきました。その起源は古く、鎌倉時代に書かれた「鎌倉領家記録」という書物には「武家にては飯に汁かけ参らせ候、僧侶にては冷汁をかけ参らせ候」という著述があり、特に寺方では好んで食べられてきたようです。
地域によっては「すったて」、「つったて」とも呼ばれ、食欲が落ちる夏場でも、簡単に美味しく食べられることから、農家や漁村の人々を中心に、体力回復のための機能食としても重宝されました。
宮崎で根強く支持されたのも、暖かい南国の気候に合ったためと言われており、家庭料理としてはもちろん、レストランや居酒屋、ホテルの朝食に並ぶこともあるそうです。
調理法としては、魚のすり身に炙った味噌、それにすりゴマなどを合わせて味を整え、豆腐やきゅうり、青じそ、ミョウガなどを加え、魚の骨や昆布などでとっただし汁で伸ばし、冷まします。これを熱々の米飯や麦飯にかけて食べますが、自分好みの味に仕立てやすいのもポイントですね。
各地の食文化、風土、気候など様々な条件に沿って定着していった冷汁。毎年記録的な猛暑に襲われる日本では、今こそ見直されるべき伝統食と言え、お好みの具を入れ、朝ごはんにかけてさらさら召し上がることをお勧めします。
宮崎が誇る海の幸が「冷や汁」の栄養価をより高く
南北に長い宮崎県の海岸線は、総延長398km。日向灘の沖を南から北に向け黒潮が流れ、岸近くでは豊後水道から南向きの流れが入り、陸地からも大小の河川が栄養豊富な水を運ぶことで、豊かな漁場が古くからたくさんあります。
明治時代には小型の漁船を使い、ブリ、マグロ、カツオなどを一本釣りする沿岸漁業、地びき網や棒受け網を使ったイワシ、サバ、アジなどを獲る網漁業などが行われ、県北部でのイワシ網漁や県南を中心とするカツオ一本釣り、明治後期に水産試験場が導入を指導したシビ(マグロ)はえ縄漁は、現代にも受け継がれています。
その後、漁船の大型化と性能の向上、漁具や漁法の改良、鮮度保持技術の向上により漁場が広がり、漁獲高は大きく上がります。昭和30年代からはブリ(ハマチ)をはじめとする養殖業も盛んになりました。
冷や汁に欠かせないすり身に向いた白身魚だけでも、ブリ類(ブリ・カンパチ)をはじめ、沿岸で漁獲されるマダイ、ヒラメ、イワシ類、アジ類、サバ類など、まさに冷や汁銀座と言える充実ぶりです。宮崎県に行く機会があったら、冷や汁だけでなく、刺身や焼き魚、煮魚、干物など、様々な魚料理を味わっていただきたいですね。
冷や汁のカルシウムが育てた野球人たち
観光地としての宮崎県は、神話の里として知られています。古事記や日本書紀にも登場する、天照大神がお隠れになられた天岩戸を御神体とする天岩戸神社 を中心とする多くの神社が信仰を伝え、高千穂神楽が上演され、今も神々が集う趣が感じられます。
そして宮崎県が最も活気づく季節が2月。宮崎市では読売ジャイアンツと福岡ソフトバンクホークス、オリックスバファローズ、日南市では広島東洋カープと埼玉西武ライオンズ、西都市では東京ヤクルトスワローズと、毎年多くのプロ野球チームがキャンプを行い、日本中の注目が集まります。マスコミやファンも多く詰め掛け、連日話題のルーキーや人気選手の動向が報道される様子を皆さんもよくご存知のことでしょう。中でも「巨人の星」や「侍ジャイアンツ」などの漫画にも登場するジャイアンツと、日南駅の駅舎を真っ赤なチームカラーに塗り替えるほど、市を挙げて応援するカープは、とくに有名です。高校野球も盛んで、多くの宮崎県出身者がプロ野球で活躍してきました。
冷や汁の主原料である、魚のすり身に含まれるカルシウムと、味噌に含まれるタンパク質。
頑健な体を作り、スタミナをつける2大栄養素が、多くの野球選手を育ててきたのかもしれません。
「冷汁」(2人分)
- エネルギー 158Kcal
- 食塩相当量 2.8g
- ※一人分の値
材料
- アジやカマスなどの干物2枚
- 味噌大さじ2
- だし汁2カップ
- きゅうり1本
- 青じそ4枚
- 豆腐1/2丁
- 白すりごま大さじ2
作り方
- 干物はさっと焼き骨皮などをとり、すり鉢に入れほぐすようにする。
- 味噌はアルミホイルに乗せ、表面を焼き香ばしくする。
- だし汁を加え混ぜ合わせる。
一度沸かして完全に冷ます。 - きゅうりは小口に切り、青じそはせん切りにする。
好みで、すりごまや、くだいた豆腐を加えていただく。