宍道湖の恵みを堪能、味噌で味わう地産地消「しじみ汁」
島根県東部の宍道湖(しんじこ)は周囲約45km、全国で7番目に大きい湖で、わずかに塩分を含む汽水湖のため、豊富な魚種が周辺の人々に食されてきました。中でも全国的に有名なのが、国内トップレベルの漁獲量を誇る大粒のヤマトシジミ。ひと昔前は、シジミをどっさり積んだ箱を乗せたリヤカーを引いたおばあさんが町中を売り歩く光景が見られ、出雲地方の「しじみ汁」は日常食として根づいてきました。
宍道湖のシジミ漁は、船上から人力でシジミをとる手掻き操業、船の動力で獲る機械掻き操業、漁師が浅瀬に入ってシジミをとる入り掻き操業など様々ですが、漁師1人につき約100kg内に収まるよう採捕量には制限が設けられています。日常的に食されるシジミですが夏の土用に食べる「しじみ汁」は身が大きく、プリプリとした食感で、栄養価が高く格別とされ、夏バテ予防としても重用されたそうです。
しじみ汁の食べ方は、シジミが生息していた環境と同じ塩分濃度(1%)で一晩砂出しをし、よく洗い火にかけた鍋に入れ、シジミが口を開いたら味噌を入れて味を整えます。昆布を入れ旨みの相乗効果を味わうのも良いでしょう。出雲には「シジミは水からヒトクラ」という言い伝えがあり、ヒトクラとは「一瞬煮立つ」ことで、「シジミは煮すぎるな」という教えです。
「宍道湖七珍」とは
「宍道湖七珍」と言う言葉をご存知ですか?季節ごとに多彩な魚介類が獲れる宍道湖の名物を表す言葉です。七珍の起源は、昭和五年(1930)に松陽新報の記者だった松井柏軒氏が発表した「宍道湖の十景八珍」なる連載記事ですが、「アカガイやハゼが入らないのはおかしい」「魚介類だけでなく、鴨も加えるべき」など議論百出、宍道湖の豊かな恵みがいかに当地の人々に愛されていたかを語るエピソードです。
その「宍道湖七珍」、まずは「シジミ」粒が大きく身は肉厚で、肝機能回復の妙薬としても有名です。続いて奉書紙に包み蒸し焼きにする”スズキの奉書焼き”でおなじみの「スズキ」晩秋から初冬に旬を迎えます。繊細で美しい姿から女性の手指にたとえられるのが「シラウオ」すまし汁にすると絶妙な香りとほろ苦さを味わえます。
鎌倉時代から天皇や将軍の御前食材に欠かせないのが「コイ」。島根県には宍道湖のコイを細く切り、塩ゆでした腹子(卵巣)と和えて煎り酒というタレで食す”鯉の糸造り”なる郷土料理もあります。スタミナ食「ウナギ」も、宍道湖の夏の主役。身を素焼きにし、照りがつくまでタレをつけ、ウチワで風を送りながら焼く”地焼き”は出雲が発祥です。この他クルマエビの一種で背ワタが少なく殻が薄いため、丸ごと食べられる「モロゲエビ」に、天ぷらや南蛮漬けとして食される「アマサギ」。以上の7品が「宍道湖七珍」の主役、一度は食べ比べてみたいですね。
宍道湖の恵みに感謝し、神々が集う出雲の国へ
10月のことを神無月(かんなづき)と呼びますが、これは全国の神様が出雲大社に集まり留守になるため。一方、全国から神様が集まる出雲地方では、10月を神在月(かみありづき)と呼び、出雲大社では神在祭が行われます。全国から神々が集い、人々から仰ぎ尊ばれてきた出雲大社は、宍道湖畔の一畑口駅から一畑電車で30分少々の場所にあります。
青々とした八雲山を背景に、長い歴史を持つ神殿が厳かに建つ境内は、神々の息吹が聞こえるよう。「大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)」が高天原の天照大神(あまてらすおおみかみ)に国を譲られた際に造営された宮殿が出雲大社の始まりといわれ、日本最古の歴史書『古事記』にも創建の由縁が記されています。「だいこく様」として親しまれる大国主大神は、サメに全身の皮を剥かれた痛みで泣いている白ウサギに、“真水で塩を洗って蒲(ガマ)の穂に包まれると良い”と教え、ウサギの傷を癒やしてあげた「因幡の素兎」伝説で知られる心優しい神様。縁結びの神・福の神として名高い「出雲大社」にお参りすることで、宍道湖の恵み以上のご利益を授かれるかもしれませんね。
「ぼたん鍋」(2人分)
- エネルギー 430Kcal
- 食塩相当量 3.4g
- ※一人分の値
材料
- しじみ350g
- 水3と1/4カップ
- 酒大さじ2
- 豆みそ大さじ3
- 好みでしょうが汁またはさらしねぎ少々
作り方
- しじみは水に漬けて、十分に砂をはかせ、殻ごとこすり洗いをしてすすぎ、ザルに上げる。
- 鍋に、しじみ、分量の水と酒を入れ、火にかける。
- 沸騰したら少し火を弱め、浮いてくるアクをすくう。
- 貝の口が全部開いたら、みそを溶き、軽く火を通す。椀に盛り好みでしょうが汁などをあしらう。