芋煮会の始まりは最上川の船着き場から
秋のレジャーシーズンに家族や仲間と楽しむバーベキューは最高のレクリエーションですね、その元祖とも言えるのが山形県の芋煮会です。時は江戸時代中期の元禄七年(1694年)、舞台は最上川。現在はJR佐沢線の羽前長崎駅にその名を残す中山町長崎地区でした。長崎は最上川を伝う舟運の終着点で、日本海に面する酒田から運ばれる塩や干魚などが内陸の各所に運ばれる分岐点として栄えました。船着き場で一休みする船頭さんや荷待ちの商人さんたちのお楽しみが芋煮会、近くにある小塩集落の名産里芋を大鍋で煮て飲み食いしたのが芋煮会の始まりと言われます。そのとき鍋を吊るした松の木は「鍋掛松」と呼ばれ、初代鍋掛松が大風で倒れ、2代目も佐沢線の鉄道工事で伐採された後もその都度復元され、現在は五代目の鍋掛松が観光名所になっています。
郷土料理というと豊作を祝う神事にちなむ料理が多いなか、芋の子汁は気の合う仕事仲間が始めたパーティーメニュー、にぎやかな様子が目に浮かびます。時代が明治に入ると芋の子汁は山形県の代表的な料理として広まり、旧制高等学校のバンカラ学生や兵隊たちが好んで芋煮会を開き、商談や見合いなども屋外の芋煮会で行われるようになりました。
明治以降は里芋と牛肉の組み合わせに
江戸時代、里芋と一緒に煮る具は最上川を舟で運んできた棒ダラの干物などが使われました。明治の近代化以降、米沢牛をはじめ山形県の畜産が盛んになり庶民生活にも肉食が広がると棒ダラに代わり牛肉入りの芋の子汁が流行し、現在に至る主流になります。
一方、芋煮会発祥の地・中山町では棒だらを使った芋煮を「北前いも煮」として現代風に復活させ、養豚が盛んな山形沿岸部の庄内地方では豚肉を使ったみそ味の芋の子汁が好まれるなど、県内にも地域ごとの特徴が見られます。
今回は牛肉を使った味噌ベースの芋の子汁を作ってみましょう。材料は4〜5人分で、好みのみそ60g、皮をむいた里芋300g、山形牛の薄切りを400g、舞茸40g、しらたき160g、せり100g。調味料として塩小さじ1と水800ccを用意します。
皮をむいた里芋は食べやすい大きさに切り、洗って汚れを落とし水気を切っておきます。牛肉は4cm程度に切り舞茸は小房に分け、しらたきは熱湯で湯がいてアク抜きし、さっと洗って食べやすい長さに切っておきます。せりは根っこについている泥をよく洗い食べやすい長さに切ります。
次にボウルに里芋と塩を入れ、塩の粒がなくなるまでよく混ぜ、流水で洗い流してぬめりを取り、水気をとっておきます。鍋で水を沸かし、里芋をやわらかくなるまで煮、牛肉と水気を取ったしらたきを入れアクを取りながら牛肉に火が通るまで中火で煮ます。鍋に舞茸を加え弱火にしてみそを溶かし入れ、せりを加えてひと煮立ちしたら、火を止め出来上がり。お好みで一味唐辛子を振っていただきましょう。
山形県に時代小説の舞台を訪ねる
皆さんは「海坂藩(うなさかはん)」という地名を知っていますか?時代小説の大家、藤沢周平さんの作品に度々登場する架空の地名です。実在はしませんが、モデルになったと言われるのが藤沢氏の故郷でもある山形県鶴岡市で、かつては庄内藩 鶴ヶ岡と呼ばれていました。
現在の鶴岡市も静かな中に凛とした佇まいを持ち、庄内藩・酒井家歴代藩主の居城「鶴ヶ岡城」の跡地「鶴岡公園」を中心に、優れた人材の育成を目的に創設された藩校・致道館、庄内藩主酒井家の御用屋敷をはじめ貴重な西洋建築を集めた致道博物館、豪商風間家の屋敷・丙申堂など、庄内藩の面影が肌で感じられる建築物がいくつもあり、時代小説の登場人物になったような気分が味わえます。鶴岡公園内にある「藤沢周平記念館」、世界的にも珍しい黒い聖母マリア像が信仰を集める「鶴岡カトリック教会天主堂」、御当地出身の名横綱を顕彰する「横綱柏戸記念館」など見学施設も豊富な鶴岡市。山形で芋の子汁を味わったあとは歴史探訪もオススメです。
「芋の子汁」(2人分)
材料
- さといも4個
- 塩適量
- 豚もも肉100g
- 厚揚げ1/2枚
- だし汁3カップ
- みそ大さじ2
- サラダ油大さじ1
- 好みでねぎ適量
作り方
- さといもは皮をむき大きめに切る。塩をふりぬめりを取り、さっと洗う。厚揚げは油抜きをして食べやすく切る。豚肉は3cmに切る。
- 鍋にサラダ油を入れ、豚肉を炒める。色が変わったら、厚揚げとさといもを入れる。
- だし汁を加えて煮込む。あくをとり、柔らかくなったらみそを加える。少し煮込み味をなじませる。好みでねぎを加える。