武田信玄も愛した、歴史ある山梨の郷土食「ほうとう」
山梨県の代名詞とも言える郷土料理「ほうとう」は、小麦粉を練り、平らに切った「ほうとうめん」を、たっぷりの具材とともに味噌仕立ての汁で煮こんだものです。遠く中国から禅宗とともに伝わってきた「餺飥(はくたく)」音読みしたもので平安時代から稲作が適さない山間部で、米に代わる主食として親しまれてきました。山梨県では郷土の英雄、武田信玄が野戦食として用いたという逸話も、人気の秘密かもしれません。
ほうとうの作り方は、ぬるま湯を少しずつ加えながら小麦粉をこね、もち状にまとめて濡れたフキンをかけ、夏場は1時間、冬は2時間ほど熟成させます。熟成させた生地は打ち粉をしながら薄くのばし、幅広く切れば「ほうとうめん」の完成です。野菜やきのこなどの具を、煮干しでとっただし汁で煮こみ、柔らかくなったら味噌とほうとうめんを入れてさらに煮こみます。ほうとうめんが透き通ってきたら、さらに味噌を加えて味をととのえ、煮立ったら火をとめ、蓋をして2、3分蒸らしてできあがりです。
一見、うどんやきしめんに似ていますが、「甲州ほうとう」と表示できるのは
- 山梨県内で製造されたもの
- 手打ち及び手打ち風のもの
- 食塩2%以下、加水量原料粉重量に対する30%前後
- 麺の厚み1.5mm前後
など、公正取引委員会では細かい基準が定められています。
たっぷりの野菜は、現代人にも適したバランス食事
「ほうとう」の大きな特長が、野菜を中心としたたっぷりの具材です。欠かせないのがカボチャ、柔らかく煮込むことで実が溶け出し、味噌と混ざり、ほうとうにからみつくような独特のコクが出ます。保存が利くカボチャは冬でも食べられる数少ない野菜であり、作物の手に入りにくい季節には鍋料理の主役として重宝されてきました。最近はハロウィーンのイメージに押され気味ですが、冬至に食べると風邪をひかないという縁起も根強く伝わっています。縁起には根拠があり、体の中でビタミンAのもとになるカロテンを多く含む、栄養豊富な食材です。カボチャ以外にも、にんじん、大根、こんにゃくなどの根菜類、シイタケやシメジ、えのき、まいたけといったキノコ類が、季節や家庭のお好みに合わせて豊富に使われます。
「豚肉や鶏肉、牛肉も人気の具材。山梨県では「甲州牛」「甲州富士桜ポーク」「甲州地どり」など「甲州統一ブランド」を冠した畜産物の生産・流通が盛んで、県内には地元の食材を活かした特色ある専門店が数多くあります。
「味噌がベースのほうとうですが、近年は麺を冷やして温かい汁につけていただく「おざら」、「カレーほうとう」「チゲほうとう」など長い歴史をかけて進化したメニューも楽しまれています。また、お汁粉の餅に代わりほうとうを用いる「小豆ほうとう」も、正月や盆、祭りなどを祝う行事食として、古くからふるまわれてきました。
山梨県は、都心からも便利な内陸のオアシス
山梨県は「ぶどう」「もも」「すもも」で日本一の生産量を誇るフルーツ王国としても知られ、中でもぶどうは「巨峰」「ピオーネ」「シャインマスカット」など多岐にわたる品種と、甲州産ワインの原料として海外でも高い評価を得ています。
また、日本一の霊峰富士を仰ぎ、石和温泉をはじめ温度、湧出量、泉質などバラエティーに富んだ温泉・冷鉱泉が各地域にあり、歴史ファンには天下統一を目指した戦国武将、武田信玄公¬の人気が今も健在です。
新宿〜甲府間は中央本線特急で約1時間半と近く、自然と食に恵まれ、深い歴史に育まれた山梨県は、都心に住む多くの人を癒してきました。
そんな山梨県が大きな注目を集めたのは1978年。ミレーの歴史的傑作「種をまく人」を購入・所蔵した山梨県立美術館がオープンし、世界中を驚かせました。ミレー、クールベ、ターナーなどバルビゾン派画家の著名作品を収集した同美術館は、地方文化を担う存在です。
山梨県を訪れる機会があれば、自然の恵み「ほうとう」とともに、農民画の巨匠ミレーの作品もぜひ味わってください。
「ほうとう」(4人分)
- エネルギー 474Kcal
- 食塩相当量 3.8g
- ※一人分の値
材料
- ほうとう生300g
- 豚肉(肩ロースなど)200g
- かぼちゃ200g
- ごぼう細1/2本
- にんじん1/2本
- 大根200g
- たまねぎ1個
- 油揚げ1枚
- その他、長ねぎ、白菜、しいたけ、しめじなど好みで用意
- だし汁(昆布と煮干し、又はかつお節)1.5l
- 酒1/4カップ
- A みそ 大さじ6
- A みりん 大さじ1
- A しょうゆ 大さじ1
作り方
- 豚肉、野菜はそれぞれ食べやすく切り、油揚げは油抜きをして細切りにする。
- 土鍋にだし汁と酒を入れて、煮えにくい根菜類と豚肉から煮る。
- 野菜が柔らかくなったら、ほうとうを加え、ほぼ煮えたらAの合わせみそを溶き入れて少し煮込み、味が染みたら食べる。